小説土佐堀川―広岡浅子の生涯―/古岡智映子を読んで~自分に負けてはいけない~

―手に取った理由―

連続テレビドラマ小説「あさが来た」の原案ということで読んでみようと思いました。

知り合いが数人、浅子が設立に協力した日本女子大に通っていたことも興味を持った理由です。

「原作」ではなく「原案」という言葉を使っています。

どうやら基本設定は同じで、話は大きく改変しているみたいです。

短い小説ですし半年のドラマで放映するには仕方ない気がします。

私はまだドラマを見ていないのですが、Amazon レビュー見るとドラマを見た後でも本書を読むとドラマで描かれていない部分があって楽しみがあるみたいです。

ドラマを既に見ているという方も楽しめると思います。

今回は本書を読んだ感想のみを掲載します。

―あらすじ―

豪商三井家から17歳で大坂の両替商・加島屋に嫁いだ浅子は、家運が傾くと持ち前の商才を発揮、「九転十起」の精神で難局を切り開き、大坂随一の実業家として大成する。晩年は女子教育にも力を注ぎ、日本初の女子大学開設に奔走。歴史に埋もれてきた不世出の女性実業家の生涯を、初めて世に紹介した名作が、待望の文庫化。(本書より引用)

倒幕・明治維新~1919年(第1次世界大戦終結あたり)までの71年の人生を生きた一人の女性の話。

本書のあらすじには描かれていないが、女子大学開設後は大同生命という大きな保険会社の設立にも携わっている。

死の淵に3度も立たされながら生還する運の強さ・気力の強さを合わせもった女性。

―著者―

古川智映子(ふるかわ ちえこ)

県立弘前中央高校、東京女子大学文学部卒業。国立国語研究所で『国語年鑑』の編集に従事、その後は高校教諭を経て、執筆活動に入る。日本文芸家協会会員。

―全体を通して―

~自分に負けてはいけない~

勝たなあかんで。負けの人生は惨めや。負けたらあかん、他人にやない、自分にや(本書より引用)

本書で描かれている五代友厚の言葉である。

浅子は非常に責任感が強い。

自分ならば途中で投げ出してしまうような事でも「自分の責任だから」と取り組む。

晩年も常に仕事を受けたり作り出したりして忙しくしていた。自分の力を目一杯出して生きた。

浅子は生涯自分に負けない人生を送った、と胸を張って言える人物だろう。

一方で人生がうまくいかない人も描かれている。姉の春や、万屋だ。

2人と浅子を分けたのは商人としての合理的思考以上に、絶対に負けるかというプライドではないだろうか。

鉱山事業を始めるまでは物語後半で見られた社会貢献の意思はなく、自分の代で嫁いだ加島屋を潰してはならないというプライドが浅子を前へと推し進めていたのだと感じる。

私は人生が順風に描かれていない姉の春や万屋が自分に負けたと決めつけるのは早いと思う。

人生は長い、死ぬときにやるべき事をやりきったと思えたとき自分に勝ったと言えるのではないだろうか。

小説では描かれていないが姉の春や万屋、他の潰れた商店の店主たちも自分に負けない生き方をして欲しいなと思う。

五代友厚は利益をして自分を富ませることを良いとした生き方をしなかったが、利益を取るための商売をした人物として三菱の創設者岩崎弥太郎を描いている。

様々な人物の生き様を描くことで商人としての生き方に正解はないのだなと思わせてくれる。

しかし個人的には、五代の生き方よりも弥太郎の生き方の方が長い目で見たときに正解なのではないのかと思う。

五代は死んだ後に残ったのは借金だけそうだ。五代は富を軽視したために次代に自分の事業を引き継げなかった。

一方岩崎の築いた三菱は富を築いたが故に次代に事業が引き継がれ現在では日本を代表するグループ企業に成長している。

自分の代だけでは事業は完結しない。

長く続く会社こそ価値があると考えると、次代にどうやって事業や志を引き継ぐかというのも重要だと思う。

長い目でみると長い間存続する企業の世の中への貢献の方が立派な人物一人ができる貢献よりも大きいかもしれないのだ。

浅子は世の中に貢献すると同時に多くの富を築いた。

大阪という街を作った五代のスケールには劣る仕事かもしれないが、浅子の築いた企業は現在も生き残っている。

連綿と続く一族の中の個人という意味では浅子の生き方はバランスが取れているのではないだろうか。

―感想-

~丁寧な時代背景の説明~

倒幕間近の時代から明治維新後の両替騒ぎ、大阪恐慌による大量の預金引き出しへの対応等金融関係に翻弄される主人公が描かれている。

銀行は預金を他の人に貸すなどの運用をしてお金を稼ぐのでいきなり預金をすべて返せと言われても手元にお金がないのである。

全体を通して時代背景の説明が丁寧で、経済と政治が密接に関わっている事を思い知らされる。

後半は時代背景を描きつつも恐慌などにビクともしない大企業の財力を見せつけている。

~政治を制するモノが経済を制する~

政治を制するモノが経済を制するのだ。

実際浅子の親の店である三井は倒幕の際、他に先んじて明治新政府の味方をすることで倒幕後重要なポストを担い立場を安定させている。

また、浅子は日本女子大学校設立のために政治権力を持つ人たちと関わりを持っている伊藤博文や松方正義などだ。

その時代を生きた大物政治家との交流を描くことで浅子の生きた時代背景をより身近に感じることができる。

更に浅子は日本女子大学校設立の時に気付いた人脈を活かして自分の銀行の預金増加に活かしている。

人脈を通じた預金増加への活動は政治を制するモノが商売を制することを端的に述べているだろう。

でも、政治を制するモノが商売を制するということは少し考えれば当たり前のことだ。

政治が作った仕組みに則って商売が行われるのだから仕組みを作る側になれば商売は有利にすすむ。

そのため現在大企業は自身のために動いてくれる議員を擁立して国会や地方議会に派遣するのだ。

~時代の変わり目はピンチと同時にチャンス~

江戸時代から明治時代の移り変わりの際に加島や財務的な危機に陥る。

それを鉱山経営に乗り出すことでチャンスに変えようとしているのだ。

世の中の変わり目言うのは商人にとっては格好の舞台(本書より引用)

商いに惰性は禁物や(本書より引用)

これは人生において非常に重要だと思う。

失われるモノを嘆くより変化にどう対応するか考えることこそが重要。

これは変化が激しい現代にも言える事ではないだろうか。

なかなか難しい課題だが、変化を乗り越えられる人間を目指したいと思う。

bycfotografem / Pixabay

~成功者に共通の考え方を見た~

少し長いが重要だと思うので引用したい。

人はともすれば自分の小さな考えに固執し、大局を忘れがちである。これが小我を基準とした生き方である。しかし人間の個々の小さな我を超えた、もっとおおきな普遍的真理とでもいうべきものがある。これが真我である。小我にとらわれず、真我に基準を置いていったときその人の生き方には行きづまりがなくなる。(本書より引用)

これは今まで紹介した以下の2作品の主人公と通じるモノがある、というか同じ事を、手を変え品を変え言っているように私には思える。

特に「キリンビール高知支店の奇跡―勝利の法則は現場で拾え!―/田村潤」で作者が述べている

「善なるものへの意思」が大切(キリンビール高知支店の奇跡より引用)

を分かりやすい言葉で述べたモノだと思う。

ただみんな頭では分かっているのだろう。

これを実践できるかどうか、身をもってこの理論を体現できるかが重要であり難しいことなのだと思う。

もう一つ心に残った文を引用しておく

何でも初めから無理と思うたら、結果もそのようになります。無理でも目的を立てて、どないしたら完遂でけるか、焦点を絞っていくことが大切どす。(本書より引用)

~人生は九転十起~

前半で、浅子が、自分は九回どころか二,三回しか転んでいないと述べているところがある。

強いなと思った。

転んだ勘定に入れる出来事の枠が広いのだ。

私だったら何か始めて、ちょっと転んだら一転びになってしまう。

比較的なだらかな私の人生でさえ私視点からみると既に百回は転んでいるのだ。

私より山あり谷ありの人生を送っているはずの浅子がまだ二、三回しか転んでいないとは…浅子が九回転ぶのは大変そうだ。

浅子視点では九回も転んだとは思ってないかもしれない。浅子のスケールの大きさを感じた。

~女性解放運動について~

浅子は女性が一人立ちするための手伝いをしており、市川房枝などに影響を与えている。

浅子のいいところは、一人立ちを良しとしない娘の亀子を認めていることだ。

意思がある人の学問や社会進出が阻まれるのは問題であり、その障害は取り除くべきだ。

しかし社会進出の意思がない人も確かにいるのだ。

今ではある程度実力があれば女性は社会進出できる時代になったと思う。

現在は女性側が社会進出をもとめているというよりもむしろ、少子高齢化による労働人口の減少や人材活用という理由で女性の社会進出が叫ばれていると思う。

しかし、そんなにたくさんの女性が社会進出したいのだろうか、昔ながらに家庭に入って子供を育てたいと思っている人もいるのではないだろうか。

これからの(今も既にだが)女性は望む、望まないに関わらず社会進出を期待されることになるだろう。

全ての女性が生きやすい世の中ではないかもしれないが、男性は問答無用で社会進出を期待される。そういう意味では男女平等なのかもしれない。

しかし、秘密/東野圭吾で述べたように脳の違いでできること、できないことは存在する。

性差による脳の違いもあるだろう。

人には得意・不得意があって適材適所の仕事をすべきだということも意識する必要がある。

~20年以上前に書かれた小説~

1988年に書かれた本らしい。

20年以上経ても読み継がれている本と言うことは時代を超えて人を感動させる力があると言うことである。

本当に価値あるモノは時代を超えて愛されるのだなと感じた。

~学問のすすめ~

浅子が福沢諭吉著の学問のすすめに影響を受けたことが書かれている。私も学問のすすめには感銘を受けた。

学問のすすめには今の時代にも通用する普遍的な事が書かれている。

学問のすすめについては後日紹介したいと思う。

―まとめ―

一人の人生の生涯を350ページほどの短い内容に収めてあり読みやすい。

本などで後生に伝えられる成功者は世の中全体の利益を考えているのかなと感じた。

1988年出版で、30年近い時代を過ぎても評価される本だから読む価値ありだと思います。

長い人生失敗はつきもの。

何かで躓いている人、うまくいってない人にもう一度頑張ろうと思わせてくれる本だ。

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